乳腺症
乳腺のしこりや痛みが生じたり、乳頭からの分泌物でるといった症状が見られる状態です。厳密には病気ではありえませんが、乳がんと鑑別しておくことが大切です。30~50代の女性によく見られます。
原因
月経や妊娠、閉経によってホルモンバランスが変化し、乳腺が繰り返し大きくなったり小さくなったりすることで、肥大した乳腺、退縮した乳腺が混在するために発症します。
症状
- 乳房や乳房まわりのしこり、痛み
- 乳頭からの分泌物
これらの症状は、通常年齢を重ねるにつれて軽減していきます。
治療
基本的に積極的な治療は行いませんが、痛みが強い場合には痛み止めを使用することがあります。また、カフェイン、脂肪の摂取量を抑えること、禁煙することで、症状の改善が期待できます。
乳腺のう胞
乳管が閉塞することで分泌物などが溜まり、乳管が袋状に膨らんだ病気です。多くは無症状であり、マンモグラフィ検査、乳房超音波検査で偶然見つかることが多くなります。
原因
何らかの原因によって、分泌物が袋状に溜まることで発症します。
根本的な原因について、はっきりしたことは分かっていません。外傷が関係することもあります。
症状
- 乳房の張り、やわらかいしこり
- 乳房の圧迫感
多くは無症状ですが、上記のような症状が見られることもあります。
治療
ほとんどは良性で、その場合特に治療は行わず、経過観察に留めます。またがん化の心配もないと言われていますが、のう胞内で腫瘍が認められる場合には、稀にのう胞内がんが見つかるため、細胞診・針生検が必要になることがあります。
乳腺炎
乳腺に起こる炎症です。うっ滞性乳腺炎、化膿性乳腺炎など、いくつかの種類に分けられます。
原因
うっ滞性乳腺炎は、授乳期に乳腺で母乳が滞ることで発症します。化膿性乳腺炎は、乳頭から細菌が入り込むことで発症します。授乳期以外にも乳腺炎は発症しますが、そのはっきりとした原因は分かっていません。
症状
- 乳房の赤い腫れ、熱感、痛み、しこり
- 乳頭から膿が出る
- 発熱
主に、上記のような症状が見られます。発熱は時に、高熱になります。
治療
うっ滞性乳腺炎の場合、頻繁な授乳・授乳方法の改善・搾乳などのセルフケアを行います。また、解熱鎮痛剤や漢方薬を処方することもあります。
化膿性乳腺炎では、解熱鎮痛剤や抗菌薬の処方、膿瘍に対する排膿処置などを行います。
乳腺膿瘍
乳腺炎が悪化し、膿瘍(膿のかたまり)が形成された状態です。
原因
乳腺炎の炎症が運悪く改善せず、膿瘍となってしまうことで発症します。
症状
- 乳房の痛み
- 発熱
- 乳汁の出が悪くなる
- 乳汁の味が悪くなる(赤ちゃんが飲まなくなる)
主に、上記のような症状が見られます。
治療
麻酔をかけた上で、膿瘍を切開し、膿を排出させます。症状は速やかに改善します。
乳腺線維腺腫
乳房に2~3cmくらいのしこりができる病気です。
原因
女性ホルモンの影響で発症するものと考えられます。そのため、年齢を重ねてホルモンの量が減少すると、自然に消えてしまうことが少なくありません。なお、通常がん化することはありません。
症状
- 乳房のしこり
- 痛み
痛みは必ず出るものではありません。
治療
多くは積極的な治療は行わず、経過観察に留めますが、美容上気になる場合、痛みがある場合には、手術が行われることもあります。葉状腫瘍や乳がんとの鑑別のため、針生検などが必要になることもあります。
乳管内乳頭腫
乳管にできる良性腫瘍です。主に、30~50代の女性に見られます。
原因
女性ホルモンのバランスの変化が影響しているものと言われますが、はっきりとした原因についは分かっていません。
症状
- 乳頭からの分泌物
- 乳頭近くの乳房のしこり
分泌物が主な症状となります。大きくなると、しこりとして自覚症状が認められるようになります。
治療
乳がんとの鑑別が必要となる場合には、小さな傷口から病変部を切除して病理検査を行います。乳管内乳頭腫と診断がつけば、その後は経過観察とします。
葉状腫瘍
乳腺の上皮と間質細胞のうち間質細胞が腫瘍となったものです。半数以上が良性ですが、境界型、悪性の可能性を考えて診療にあたります。特に、急激に大きくなったしこりには注意が必要です。葉状腫瘍は主に、30~50代の女性に見られます。
原因
今のところ、葉状腫瘍のはっきりとした原因については解明されていません。
症状
- 乳房のしこり
- 乳房の皮膚が薄くなり、潰瘍を形成する
- 乳房のしこりの急速な増大
主な症状は、しこりです。まわりの組織との境目が曖昧で、触ってもはっきりと認識することが難しい傾向にあります。
治療
良性であっても、乳房の部分切除または全切除を行うのが基本です。全切除の場合には、保険診療として乳房再建が受けられます。
乳がん
乳がんは、日本人女性が罹患するがんとして最多のがんです。罹患率は30代で急増し、40代後半~50代前半がピークとなります。
原因
喫煙、飲酒、肥満などの生活習慣の乱れ、糖尿病、遺伝などがリスク因子になることが分かっています。また、出産・授乳経験がない、初産・閉経が遅い、初経が早かったという人は、そうでない人と比べると乳がんのリスクが高くなると言われています。
症状
- 乳房のしこり、痛み
- 乳頭からの分泌物
- 乳頭、乳輪のただれ、かゆみ
- 乳房のくぼみ、腫れ
主に、上記のような症状が挙げられます。
治療
病変の広がりなどに応じて、手術、放射線療法、薬物療法などを組み合わせた治療が行われます。
毎年10月は、「ピンクリボン月間」です。
"閉経したら乳がんにならない"と思われていますか?
- 罹患率:2019年データ 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
受診率:2022年データ 国民生活基礎調査のデータを元に作成
現代の乳がんの本当のピークは60-70代です。
60歳以降の”乳がん受診率”は低下し続けており、さらに堺市は全国平均より低い状況です。
乳がんは、早期に発見し、早期に治療すれば治る可能性が高いがんです。
早期発見がカギとなります。
”まだ若いから”とか”閉経したから”などと思わず、是非とも乳がん検診を受けていただくことをお勧めすします。
石灰化
カルシウムの沈着によって、小さな石ができることを石灰化と言います。乳腺で石灰化が起こった場合には、マンモグラフィ検査での発見が可能です。正常な乳腺でも石灰化は認められますが、乳がんに石灰化が伴うこともあるため、乳がんによるものかそうでないかを鑑別することが大切になります。乳がんが疑われる場合には、針生検を行います。また、ただちに良性の石灰化と診断できないこともあるため、その場合は半年~1年後に再度マンモグラフィ検査などによるフォローアップが必要になります。