ピルとは
ピルとは経口避妊薬のことを指します。経口避妊薬 (oral contraceptive pill; OC, 以下OCと呼びます。)のピル(pill)部分だけを呼んでいます。また、ピルとは丸い形をした薬のことを表しています。OCは世界共通ですが、日本では低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬 (low dose estrogen progestin; LEP, 以下LEPと呼びます。)も含めて、ピルと呼んでいます。OCとLEPはどちらも人工のエストロゲンとプロゲスチンを合わせて1錠にしたもので、自費で処方するものをOC、保険で処方するものをLEPと呼んでいます。もともと、避妊目的としてOCの使用が自費で認可されました。その後、OCは避妊以外の効果 (月経痛改善、月経量の減少など)が認められるようになりました。そこで治療薬として開発されたのがLEPになります。次に当院で扱っている、ピルについて説明していきます。
ピルの種類
一相性 | 三相性 | ||
エチニルエストラ ジオール |
20㎍ | 30-35㎍ | 30-35㎍ |
第一世代(ノルエチステロン) | ルナベルULD® (フリウェルULD®) シンフェーズ® |
ルナベルLD® (フリウェルLD®) |
ー |
第二世代(レボノルゲストレル) | ジェミーナ® | ー | アンジュ® (ラベルフィーユ®) |
第三世代(デソゲストレル) | ー | マーベロン® (ファボワール®) |
ー |
第四世代(ドロスピレノン) | ヤーズ® (ドロエチ®) ヤーズフレックス® |
ー | ー |
赤字はOC、黒字はLEP
ピルのエストロゲンは共通で、エチニルエストラジオールとなっており、プロゲスチンの種類が薬により異なっています。一相性はエストロゲンとプロゲスチンの配合量がシートの中で一定ですが、三相性はシート内で増減します。三相性の方がより自然に近いホルモン量になっています。
第一世代
ルナベルULD® (フリウェルULD®)、ルナベルLD® (フリウェルLD®)、シンフェーズ®
ノルエチステロンの作用により月経量が減り、月経痛緩和に効果的なピルです。
第二世代
ジェミーナ®、アンジュ® (ラベルフィーユ®)
ジェミーナは月経痛改善目的のために開発された保険適応の超低用量ピルです。また、ジェミーナは連続投与できるピルになっており、最長で77日間内服できます。(28+28+21+7休薬=84日間が1クールです。)ジェミーナと同世代のアンジュ® (ラベルフィーユ®)は三相性になっており、ホルモン動態がより自然に近くなっています。
第三世代
マーベロン® (ファボワール®)
デソゲストレルは抗アンドロゲン作用が強く、ニキビに効果が高いと言われています。
第四世代
ヤーズ® (ドロエチ®)、ヤーズフレックス®
ヤーズのドロスピレノンには抗ミネラルコルチコイド作用があり、むくみにくいという特長があります。実薬が24錠で偽薬が4日間となっており、ホルモンの変動が少ないとされています。休薬期間中にトラブルが起こるかたに適しています。ヤーズフレックスは連続投与できるピルです。月経回数をできるだけ減らし、PMSなどの月経前の様々な症状の軽減が期待されます。
ピルの効果と副作用
ピルの効果は月経困難症の軽減、月経量の減少、子宮内膜症の進行抑制と症状改善、にきびの改善、子宮体癌・卵巣癌の予防、大腸癌の減少などさまざま報告されています。ピルの副作用として頻度の高いものは嘔気、頭痛、乳房緊満感、むくみ、不正出血などです。特に嘔気やむくみはピルに含まれているプロゲスチンによる影響が考えられます。通常は服用してから1週間程度で落ち着いてくる方が多いですが、症状が強い場合は服用を一旦中止し、別のピルに変更して様子を見ることがあります。また服用開始直後は不正出血が起こりやすくなっていますが、この症状も3シート目くらいから落ち着いてきます。ピルで最も深刻な副作用は血栓塞栓症です。血栓とは血管内にできる血の塊のことを指し、その固まった血が重要な臓器に飛ぶことで血流を遮断してしまい、重篤な疾患を引き起こすことがあります。具体的には肺血栓塞栓症や脳静脈洞塞栓症などが挙げられます。服用中にACHES (下記表をご参照ください)に当たるような症状が現れた場合はすぐに服用を中止し、医療機関を受診していただく必要があります。しかし、血栓塞栓症の起こる確率はピルを服用していない方で年間1-5人/10,000人で、ピルを服用している方で年間3-9人/10,000人と報告されていますが、一方で妊娠中が年間5-20人/10,000人、産後3か月は年間40-65人/10,000人と言われており、ピルを内服されている方は血栓塞栓症のリスクは増加しますが、妊娠中や分娩後に比べるとその発症頻度は低いことが知られており過度の心配は不要です。ピル自体は月経困難症等に対して非常に有効な治療ですので、リスクを評価しつつ適切に使用することが大切です。
A | Abdominal pain | 激しい頭痛 | 下大静脈・腸間膜静脈血栓 |
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C | Chest pain | 胸痛 | 肺塞栓 |
H | Headache | 激しい頭痛 | 脳静脈洞血栓 |
E | Eye/speech problem | 視野異常、舌のもつれ | 網膜中心動脈閉塞、脳梗塞 |
S | Severe leg pain | 下肢の痛み | 下肢深部静脈血栓 |
中用量ピル
現在日本で使用されている中用量ピルはプラノバール®のみです。当院では主に月経調節をする際に用いています。大事なイベントや旅行、試験等と生理をかぶらせたくない場合はご相談ください。 (生理ずらしは自費診療となります。)予定がお分かりであれば、ずらしたい月経の1周期前の月経開始前か月経途中でお越しください。来られるタイミングによっては調節が難しい場合がありますので、あらかじめ余裕を持ってご相談ください。
アフターピル
当院では緊急避妊薬としてレボノルゲストレルとエラを取り扱っています。前者は72時間以内、後者は120時間以内の服用が可能です。妊娠阻止率はレボノルゲストレルで84%、エラはそれよりも高い効果を持つと報告されておりますが、どちらも性行為後できるだけ早く服用することでさらに妊娠阻止効果が高くなります。
レボノルゲストレルの主な副作用として悪心 (2.25%)、下腹部痛などの胃腸障害 (3.98%)、頭痛 (1.38%)、傾眠等の神経系障害 (2.6%)、不正子宮出血等の生殖系および乳房障害 (2.08%)などが報告されており、エラの安全性はレボノルゲストレルと同等と報告されています。またヤッペ法といって中用量ピル(プラノバール®)2錠を性行為後72時間以内とその12時間後の計2回(計4錠)服用する方法もあります。妊娠阻止効果はレボノルゲストレルやエラと比べて弱く (24時間以内の服用で77%、48時間以内で36%、72時間以内で31%の妊娠阻止率)、悪心嘔吐や頭痛などの副作用の発生率が高いことが報告されていますが、費用は安くなっています。
※アフターピルの避妊効果は100%ではありません。アフターピル内服による月経周期への影響はほぼないことが知られており、月経の予定が1週間以上ずれる場合は避妊不成功の可能性を考慮し、妊娠の可能性について確認するために医療機関への受診が必要です。
ミニピル
ミニピルとはエストロゲンを含まない、プロゲスチン (黄体ホルモン)単独の薬です。正しく服用すれば、ピルとほぼ同等の避妊効果を持つと言われています。当院ではセラゼッタ®を取り扱っています。 (自費診療となります。)成分にエストロゲンを含まないため、いわゆるピル (エストロゲンとプロゲスチンの合剤)と違って、血栓症のリスクは増加させないと言われており、40歳以上で血栓症が心配な方や、片頭痛をお持ちの方も比較的安全に使用できます。お気軽にご相談くださいませ。頻度の高い副作用としては不正性器出血がありますが、長期の使用により徐々に減少していきます。